<例文>
「いさぎ良く名乗りを行ったその武士には、かねてより主君への謀反の恐れがあった」
<解説>
「いさぎ良く」の「いさぎ」とはなんでしょうか。
なんだかわからないけれども、その「いさぎ」は良いのか、悪いのか。
「いさぎ」が何だかかわからないのに、その良し悪しを決めてしまうのはいかがなものでしょう。
何だかわからないものについて判断できるのは、それが何なのかわかるか、わからかいかの2つだけです。
「いさぎ」が何なのかわからないならば、それについて良し悪しを判断することはできません。
というわけで「いさぎ良く」は使えません。
では「いさぎよく」ではどうでしょう。
ひらがなだけでは意味が伝わりにくいですね。
そこで、漢字で表記します。
――「潔く」。
これなら意味がしっくり伝わります。
次に「〜のおそれがある」は「虞:心配」の意味です。
「こわがる」意味での「恐れる」ではありません。
かといって「虞がある」という表記は一般的ではありません。
こういう場合は、無理に漢字を使う必要はありません。
ひらがなで表記しましょう。
<リライト例1>
「潔く名乗りを行ったその武士には、かねて主君に謀反を起こすおそれがあった」
「謀反」と相性のいい動詞は「起こす」。そこで「謀反を起こすおそれ」としました。
「かねて」は「あらかじめ」「以前から」の意味があります。「かねて」に「より」「から」をつけると二重の表現になるので「かねて」にしました。
文には「武士」「謀反」とありますから、時代劇かなにかで聞いたような気がする「かねてより」を使いたくなるかもしれません。
「かねてより」を使うと、なんとなく時代劇っぽくなりそうだ。
そんなふうにおもうのはいたし方ありませんが、日常生活ではあまり使わない、馴染みがないことばは避けるのもひとつの方法です。
時代劇風という雰囲気に流されるのではなく、雰囲気を壊さない程度にうまく流れに乗ることが大事です。
そこで「謀反」や「かねて」を他の語に置き換えて、もっとやさしい文にすると次のようになります。
<リライト例2>
「潔く名乗りを行ったその武士には、以前から主君にさからって兵を起こすおそれがあった」
ちなみに「名乗り」とは、戦(いくさ)で武士が敵に向かって自分の姓名や身分などを大声で告げることです。
「名乗り」をこれ以上やさしいことばに置き換えようとすると、説明文っぽくなってしまうので、そのままにしました。
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